SOCを組織し、ネットワークのセキュリティを見張り続ける

ルーターのIPSやDNSフィルタリング、端末のウイルス対策など、機器ごとの防御を入れても、攻撃のすべてを入口で止められるわけではありません。止めきれなかった攻撃は、ログの中にわずかな兆候として残ります。

SOC(Security Operations Center)は、ネットワークや端末のログを集めて見張り、攻撃や不正の兆候を見つけ、調べて封じ込めるまでを担う体制です。NOCがネットワークを止めずに動かし続けることを担うのに対し、SOCは侵入や悪用を見つけて止めることを担います。

この記事では、NOCの記事と同じく、本店から支店を見る場合と、複数の顧客を見る場合の両方について、SOCを立ち上げるときに押さえるべきポイントを整理します。

機器の防御だけでは守り切れない理由

通知を誰も見ていない

IPSやDNSフィルタリングは、危ない通信を遮断して記録を残します。しかし、その記録を誰も見ていなければ、同じ端末で何度も遮断が起きていても、感染に気づけません。

1台のログでは流れがつながらない

攻撃は、偽のメールから始まり、端末の乗っ取り、社内の別の機器への侵入、情報の持ち出しへと進みます。それぞれの痕跡は、メール、端末、ファイアウォール、認証基盤と、別々の機器に残るため、つなげて見ないと全体が分かりません。

通知が多すぎて埋もれる

機器ごとに通知を受けていると、件数が多すぎて、本当に危ないものを見落とします。重要度で振り分け、誤検知を減らす仕組みが要ります。

遮断の後の対応がない

通信を遮断できても、感染した端末はそのまま残ります。端末を切り離し、原因を調べ、再発を防ぐまでを誰が担うかを決めておく必要があります。

SOCが担う業務

SOCの業務は、次の7つに分けられます。

業務内容
ログの収集と保管ネットワーク機器、端末、認証基盤、クラウドサービスのログを1か所に集め、決めた期間保管する
検知複数のログを突き合わせるルール(相関分析)で、攻撃や不正の兆候を見つける
一次判定(トリアージ)通知が本物か誤検知かを見極め、重要度を決める
調査影響を受けた端末やアカウント、侵入の経路、持ち出された情報を調べる
封じ込めと復旧端末の切り離し、通信の遮断、アカウントの停止で被害の広がりを止め、元の状態に戻す
報告と再発防止経緯と原因をまとめて報告し、設定や検知のルールを見直す
脅威情報の収集新しい攻撃の手口や、メーカーのアドバイザリを集め、検知のルールに反映する

何を集め、何を見つけるか

SOCが集めるログと、そこから見つける兆候の例です。

集めるログ見つける兆候の例
ルーター(IPS、DNSフィルタリング、ファイアウォール)指令サーバー(C2)との通信、同じ端末での遮断の繰り返し、深夜の大量送信(情報の持ち出し)
無線LAN偽AP、認証の失敗の繰り返し、登録のない端末の接続
認証基盤(RADIUS、IDaaS)パスワードの総当たり、ふだんと違う国や時間帯からのログイン
端末(EDR)不審なプログラムの実行、管理者権限の奪取
IPカメラと録画装置管理画面への不正なログイン、初期パスワードのままの機器、外部への不審な通信
クラウドサービス大量のファイルのダウンロード、外部への共有の急増

SOCを支える仕組み

SIEMでログを集める

ログの収集、相関分析、通知、保管には、SIEMを使います。Microsoft Sentinel、Elasticsearchを基盤にしたElastic Securityなどがあります。

本店と支店、あるいは顧客ごとにログを分けて保管し、見られる範囲を担当者ごとに決めます。

端末はEDRで守る

端末の中で起きていることは、ネットワークのログだけでは分かりません。端末の動きを記録し、不審な動きを見つけて切り離す仕組み(EDR)を入れ、そのログもSIEMに集めます。

Windowsの端末であれば、Microsoft Defender for Endpointが代表的です。Windowsに標準で入っているMicrosoft Defenderのウイルス対策に、EDRの機能を加えたものです。

対応を自動にする

決まった手順の対応は、自動にできます(SOAR)。たとえば、指令サーバーとの通信を見つけたら、その端末をネットワークから切り離し、担当者に知らせる、といった流れです。

時刻をそろえる

機器ごとに時刻がずれていると、ログを時刻でつなげられません。すべての機器の時刻を、同じ時刻サーバー(NTP)に合わせます。

ログを守る

侵入した攻撃者は、痕跡を消そうとします。ログはすぐにSIEMへ転送し、書き換えや削除ができない形で保管します。

保管の期間は、調査に必要な長さと、法令や契約の求めに合わせて決めます。

EDRの仕組み

EDR(Endpoint Detection and Response)は、端末の中で起きたことを細かく記録し、その流れから攻撃を見つけて、端末の上で対処する仕組みです。

記録する

端末に入れたエージェントが、プロセスの起動と終了、ファイルの作成と変更、レジストリの変更、ネットワークの接続、スクリプトの実行などを記録します。Windowsでは、カーネルからの通知(コールバック)、ファイルの操作を見張るドライバー(ミニフィルター)、ETW(Event Tracing for Windows)、スクリプトの中身を検査するAMSIなどの仕組みを使います。

Windowsのイベントログや、Microsoftの無償のツールSysmonでも、似た記録は取れます。EDRは、それより細かい記録を、攻撃者に止められたり書き換えられたりしにくい形で取り続けます。

つなげて見る

記録を、どのプロセスがどのプロセスを起動したか(親子関係)でつなげます。たとえば、メールの添付ファイルを開いたWordがPowerShellを起動し、外部からプログラムを取り込んで実行し、指令サーバーに接続した、という流れです。1つ1つは普通の操作でも、つなげると攻撃だと分かります。

見つける

既知の不正なプログラムの特徴(シグネチャ)に加えて、攻撃に特有の振る舞いのパターン、クラウドに集めた多数の端末の情報、機械学習を使って判定します。ファイルを使わず、メモリの中だけで動く攻撃も、振る舞いから見つけられます。

対処する

不審な端末をネットワークから切り離す、プロセスを止める、ファイルを隔離する、といった対処を、自動で、または遠隔から行います。切り離した端末でもEDRの管理サーバーとの通信は残るので、調査を続けられます。

さかのぼって調べる

記録は一定期間保管されるので、後から「この端末で、いつ、何が起きたか」をさかのぼれます。SIEMに送れば、ネットワークや認証のログと時刻でつなげて調べられます。

Sysmonの記録をつなげて見る例:プロセスの親子関係と、同じプログラムの通信をたどると、1つ1つは普通の操作でも攻撃の流れが見える(値は説明のための例)
Sysmonの記録をつなげて見る例:プロセスの親子関係と、同じプログラムの通信をたどると、1つ1つは普通の操作でも攻撃の流れが見える(値は説明のための例)

攻撃の手口を整理する(MITRE ATT&CK)

MITRE ATT&CK(マイター・アタック)は、米国の非営利団体MITREが、実際の攻撃で使われた手口を集めて整理した知識ベースです。攻撃者の目的を「戦術」(偵察から影響まで15の段階)、そのための具体的な方法を「テクニック」として分け、それぞれに番号を付けています。以前の版の「防御の回避」は、いまの版では「隠蔽」と「防御の無効化」の2つに分かれています。

SOCでは、次のように使います。

01
検知の抜けを見つける

自社の検知のルールが、どの戦術とテクニックを見張れているかを表にし、手薄なところを補います。

02
共通の言葉で伝える

「T1059.001(PowerShell)を検知した」のように番号で伝えると、委託先やメーカー、ほかの組織とも誤解なく情報を交わせます。

03
優先度を決める

脅威情報から、自社の業種を狙う攻撃者がよく使うテクニックが分かれば、そこから検知を固めます。

前の節のSysmonの例も、初期アクセス(添付ファイル)、実行(PowerShell)、隠蔽(-encによる難読化)、指令と制御(外部への接続)と、ATT&CKの段階に当てはめられます。主な戦術と手口の例は、次のとおりです。

戦術手口の例(テクニックの番号)主に痕跡が残るログ
初期アクセス添付ファイル付きの偽メール(T1566.001)メール、DNSフィルタリング
実行PowerShellでのコマンドの実行(T1059.001)EDR、Sysmon
永続化起動時に自動で動くよう登録(T1547)EDR、Sysmon
隠蔽コマンドやファイルの難読化(T1027)EDR、Sysmon
防御の無効化EDRなどのセキュリティツールの停止や改変(T1685)EDR、SIEM(ログの途絶)
認証情報へのアクセスパスワードの総当たり(T1110)、OSからの認証情報の抜き取り(T1003)認証基盤、EDR
横展開リモートデスクトップなどで別の端末へ移る(T1021)ファイアウォール、認証基盤、EDR
指令と制御Webの通信に紛れた指令サーバーとの通信(T1071)ルーター(IPS、DNSフィルタリング)
持ち出し指令サーバーとの通信を使った情報の送り出し(T1041)ルーター、ファイアウォール
影響ランサムウェアによるデータの暗号化(T1486)EDR、ファイルサーバー

この表は主なものの抜粋です。戦術とテクニックの全体は、MITRE ATT&CKのWebサイトで公開されています。

MITRE ATT&CKの戦術の流れ:攻撃は左から右へ、偵察から影響まで15の段階で進む。青枠はSysmonの図の例でたどった手口(テクニックの番号は代表的なものの例)
MITRE ATT&CKの戦術の流れ:攻撃は左から右へ、偵察から影響まで15の段階で進む。青枠はSysmonの図の例でたどった手口(テクニックの番号は代表的なものの例)

体制の形

すべて自社で持つ

監視から封じ込めまでを自社で担います。NOCと同じ部屋や同じ担当者で運用すれば、ネットワークの状態とセキュリティの通知を、同じ場所で見られます。

24時間365日の監視には人数が要るため、規模によっては負担が大きくなります。

すべて委託する

監視と一次判定、調査を、外部の事業者に任せます(マネージドSOC、MDR)。夜間や休日も含めて、専門の人員に見てもらえます。

ただし、端末の切り離しやアカウントの停止など、業務に影響する判断を、自社の誰が下すかは決めておく必要があります。

組み合わせる

夜間や休日の監視と一次判定は外部に任せ、調査の判断と封じ込め、再発防止は自社に残す形です。ログとSIEMを自社で持っておけば、委託先を替えても記録が途切れません。

NOCとつなぐ

ネットワークの障害と攻撃は、見分けにくいことがあります。通信が急に増えたときに、機器の故障なのか攻撃なのかを、NOCとSOCで情報を交わして切り分けます。連絡の経路と、どちらが主に対応するかを決めておきます。

立ち上げの進め方

01
守るものを決める

拠点、顧客、システム、情報のうち、何を優先して守るかを決めます。

02
ログを集める

守るものに関わる機器のログをSIEMに集め、時刻をそろえます。

03
検知のルールを決める

まずは、指令サーバーとの通信やログインの総当たりなど、確実に危ないものから検知のルールを作ります。

04
手順書を作る

通知の種類ごとに、判定、調査、封じ込めの手順を、手順書(プレイブック)にまとめます。

05
訓練する

攻撃を想定した訓練で、手順書どおりに動けるか、連絡の経路が機能するかを確かめます。

06
見直す

誤検知の多いルールを調整し、新しい手口に合わせてルールと手順書を更新します。

チェックリスト

項目チェック項目
ログネットワーク機器・端末・認証基盤・クラウドのログをSIEMに集約、時刻の同期、書き換えできない保管、保管期間
検知相関分析のルール、MITRE ATT&CKで抜けを確認、重要度での振り分け、誤検知の調整、脅威情報の反映
端末EDR(Windowsの端末ならMicrosoft Defender for Endpointなど)、ログをSIEMへ
対応一次判定・調査・封じ込めの手順書(プレイブック)、自動化(SOAR)、業務に影響する判断の責任者
体制内製・委託・組み合わせの選択、対応する時間帯、NOCとの連携、定期的な訓練と見直し

当社は、本店と支店、あるいは複数の顧客を対象に、ログの集約と検知の設計から、手順書の整備、NOCと連携した運用まで、SOCの立ち上げを支援しています。

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